"女王様"って言うと、普通は"女の人"だと思うよね?
だって"女王様"って字の中に
"女"って字が入ってるんだから。



「…で、お前の名は」

、です」

「それだけか」



でも、今、あたしの目の前にいる人は…多分、男性。
綺麗だけども、ど〜〜〜〜みても、女性には見えない。
とはいえ、オカマさん…にも、見えない。




「さて、どうしたものか…」

絨毯の上にある、重厚な椅子に座っている彼…もとい、女王様は、あたしの名前を聞いてからずっとこんな調子。
相手が地位のある人物ってことで、頭を下げたままだから、その表情は見えないけど、声を聞く限りでは…困っているというより、面倒という風に聞こえなくもない。

「ジャック、お前はどう思う」

「………」

ジャックっていうのは、多分最初ここに連れて来てくれた人の名前。
でも、道中ひと言も喋ってくれなかったんだけど、ここでも喋らないのかなぁ?

そういえば途中ですれ違った、黒いベールの綺麗な…あれは、メイドさん?かな。
あの人たちが彼に挨拶した時も、何も言わずに頷いただけだったもんね。
…寡黙、な人…なのかなぁ?

沈黙が続くと、つい余計なことを考えてしまう。
そんなことを俯いたままぼんやり考えていたら、急に名前を呼ばれた。

、と言ったな」

「は、はい!」

「立て」

「…は?

「立て、と言ったんだ。聞こえなかったか?」

荘厳とも言える声に、僅かな恐怖心が芽生える。
チェシャ猫さんとは違う、逆らえない声の力に…慌ててその場に立ち上がった。

「ふむ…」

「………」

「そのまま、後ろを向け」

「…は、はい」

言われたとおり後ろを向く。
女王様へ続くカーペットの脇には、等間隔で座っているメイドさん。
その人たちの視線は、さっきのあたしみたいに床に向いているけれど、せ…背中に、凄い視線を感じる。



――― み、見られてる…



「今までいなかったタイプだな」

「……」

「トランプが揃っていなければ、たまには毛色の違うモノが入ってもよかったのだが…」

「………」

「お前のように、男ではないから色々楽しめるだろう」

言葉の意味はわからないんだけど、不穏な気配を感じる…のは気のせい、だと思いたい。
服の下から、じわっと嫌な汗が滲みそうになった時、急に大きな音を立てて、視線の先のドアが開いた。

「邪魔するぞー」

そこからやってきたのは、真っ白なスーツを着た金髪の男の子。

「…アリス、君か」

「これはこれは、女王陛下。ご機嫌麗しゅう〜」

女王様に用がある彼に立ち尽くしているあたしは目に入っていないようだ。
まるで見えていないかのように横を通り過ぎていった彼は、引き続き女王様に話しかけた。

「…っつーか、誰もいねぇからわざわざこの俺自ら、あちこちドア開けてアンタを探してやったんだぜ?感謝しろよな」

「それはそれは…だが、今は来客中だ。見てのとおり、な」

「来客〜…んなもんいたか?」

ここにいます…とも言えず、無言で立ち尽くしていると、足音がこちらに近づいて来た。

「あーこいつか……って、お前っ!!

急に視界に飛び込んできた彼の青い目と、ばっちり目が合い、思わず後ろに一歩下がりかけた。

「おいっ、こいつ」

「きゃっ!」

…が、その前に腕を掴まれて、そのまま強引に女王様の方へと向きを変えられる。

「こいつ…まさかっ!」

「彼女は
"アリス"ではない…だ」

……」

「それに、そんなに驚くことはないだろう。なんたって、今の
"アリス"は君…なのだから。…なぁ、アリス」

「……そう、だったな。今は…俺が
"アリス"だ」

消え入りそうな声に反して、掴まれた腕を掴んでいる手の力は強い。
僅かな痛みと恐怖もあるけれど、それよりも俯いて苦しそうに唇を噛み締めているその横顔が、見た目よりも幼く見えて、空いている方の手を、そっと震える彼の手に重ねた。

「っ!!」

手が触れた瞬間、弾かれるように手を離され…更に、あるものが目の前に突きつけられた。

「触るなっ!」

「………ぁ」



目の前にあるのは…銃 ――― 銃口

テレビや映画の中でしか見たことがない、現実味のないもの。
けれど、人の命を、容易く奪う、もの




「お前…一体、なんなんだよ!!」

「アリス、落ち着け。彼女は、白ウサギに名前を与えられ、私の元へ役割を貰いに来たただの女だ」

「そんなヤツいるのかよ!」

「目の前にいるじゃないか」

「…っ」

「安心しろ…。アリスの銃で、君は死なない」

死、
な…ない…

そう言われても、キラリと鈍く光る銃身は、悲鳴を飲み込もうと強く噛み締めている歯すらも、かたかた震わせてしまう。

「アリス。まだ彼女とは話が終わっていない。銃をしまってくれ」

「…こっちの用事が先だ」

「では、聞こう。ジャック、彼女を一時隣の部屋へ」

「………」

ここへ来た時と同じように、ジャックと呼ばれた人があたしの隣に立ち、進むべき道を示してくれている。
けれど、あたしの足は、今与えられたばかりの恐怖で、震えて動かすことが出来ない。

「ジャック、すぐに、彼女をこの部屋から出せ」

「……」

「今すぐ、だ」

震えていた身体が、急激に安定感をなくしてふわりと浮き上がる。

「…っ!?」

いつまで立っても動かないあたしに対して、女王様の命令に従った彼がとった行動は…お姫様抱っこで、部屋から出て行くことだった。

「きっ…
きゃあああっ!?

「ふふ…中々いい反応をする」

「…あんた、相変わらずいい趣味してるな」

「君ほどではないよ」

二人の視線は、あたしの方へ向いていたのかもしれないけど、今のあたしは慣れない状況に、ただただ声をあげるだけ。





どうしてこんな事になってるの!?
こんなことなら、どんな手を使ってでもウサちゃんのところから出なければ良かったーっ!!





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